■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
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「政策型思考と政治」を読む
(カテゴリー: 自治体学理論
「政策型思考と政治」(松下圭一著・東大出版会)の読書研究会を終えて 

1 この書物が出版されて以来、全国各地でこの本をテキストにした読書会が数多く開かれたが「扉のことば」から「あとがき」までを完読した読書研究会は少ないであろう。
なぜなら、この書物は既成の観念に捕らわれていたのでは理解できない「政治・政策と市民」の理論体系書であるから、完読するには集中力の持続が必要である。集中力の持続を可能にする運営が読書会にないと息切れして閉店休業になる。だから、大抵の読書会は完読できないで途中で終息する。
「政策型思考研究会」と命名して月一回の読書会を続けた。
 勤務後の夕刻の短い時間でこの本の一章を一回で理解するのは困難である。困難ではあったが、そうしなければ完読できない。理論体系書であるから完読しなければ意味がない。ところが、理論体系書であるからどの章も他の章と密接につながっている。次の章で前章の意味と用語が判然としてくることが(しばしば)である。また、目次に付けられている「星印」は体系の区分であるから、そのところで振り返りの自由論議を行って咀嚼を助け合うようにした。巻末の索引も重宝した。索引に示されているページを捲って書物を横に読めば用語の意味が判然としてくる。
また、語句に付けられている四種の括弧の意味もその都度話し合った。
 各章毎の報告者を定め論議するべき点を見出した。報告者は「書かれていることを理解するために」何回も読み返してメモを作成した。だが報告は「このようなことが書いてある」との説明は不可とした。自分の言葉で言えなければ真に分かったではない、そうでなければ納得理解したにならないからである。そしてまた、全員が読んできているのだから、自身もよく分かっていない報告者の講釈は時間の浪費である。
 研究会であるから、まず、報告者自身が「よく分からない用語と叙述」「成るほどと思い賛同したのはどのようなことか」「このような理解でよいのだろうかと思うこと」を提出して話し合った。

2 ところで、この本を難解だと言う人が少なくない。文体が馴染めないと言う人もいる。問題は、なぜ難解だと思い馴染めないと感じるのか、である。
 この書物を納得し理解するには、読む人自身の「政治イメージ」と「基礎概念」の再吟味が不可欠である。自身の政治イメージを問わず基礎概念の吟味を拒む人にはこの書物を正当に理解することはできないであろう。誰しも人は、自身の思考の基本枠組みや基礎概念の問い直しには緊張感が伴うから苦痛である。だから、無意識的に自分を庇い「難解の防御壁」をめぐらすのではあるまいか。この本は扉にも書かれているように「国家観念との別れの書である」。既成の通説である国家学の理論を転倒するのであるから易しくはない。易しい筈がないではないか。
 問題は、読んで成る程と納得するか否かである。確かにそうだと思うかどうかである。
 納得すれば次第に難解と思わなくなる。そしていつの間にか、分かりやすくて読みやすい書物になる。
 例えば実際の話として、松下教授の書物が刊行されるたびにテキストにして学習会を続み続けている大阪の市民文化団体の人達は「松下さんの本はどれも分かりやすくて読みやすいですな」と言う。明治以来の国家学の理論に呪縛されていないからである。自由で自立した市民であるからであろう。つまり、国家学の政治・行政の理論に馴れ親しんでいる人にはその分だけ難解になるのであろう。

3 研究会の人達はいつの間にか、当初は難解だと言っていた概念・用語で語り合うようになった。そして例えば、岩波新書「日本の自治・分権」「政治・行政の考え方」は、実に分かりやすいと言うようになった。それは、漠然とした理解のままではあっても毎回一章ずつ進行した悪戦苦闘の手探りの読書研究会の成果であると言えよう。そして成果は、自身の仕事を市民の立場で考えるようになったことである。「政府間関係理論」や「政府信託理論」で地方分権や道庁と市役所・役場のあるべき関係を語り合い、自治体をめぐる様々な日常的な現実の問題を、政策情報、市民自治、政策開発、参加手続、市民と住民、などの概念を使って考えるようになった。つまり、事象を洞察して理論的に考察する視座を持ったと言える。それは、国家統治の官庁理論の呪縛から自らを解き放ち、市民自治の自治体理論の考え方を確立したと言えるであろう。地方公務員から自治体職員への自己変革である。

4.私は、北大の大学院の演習でもこの書物をテキストにした。現在の北海学園でも大学院で使用している。なぜこの書物をテキストにするのか。
 この書物は、各人が自身の思考の座標軸を形成するに最適の書であると考えるからである。現在の日本は都市的な生活様式が全般化した社会である。どのような山村、僻地、離島にも工業文明的生活様式、情報産業的生活スタイルが広がっている。これはかつてなかった事態である。そこには前例のない公共課題が噴出している。噴出しているのだが前例のない課題であるからそれを公共課題として設定できないでいる。また、前例のない課題ばりであるから解決できない。これまでの手法は役に立たない。解決方策を開発しなければならない。何が課題であるかを考えるには座標軸が必要である。
 既存の学問も、前提条件ががらり変わっているのだから「思考枠組み」と「基礎概念」の再吟味が不可欠であろう。
 この書物は思考の座標軸を形成するに最適の書であると考える。
 本書を読み理解了得するに効果的だと思うのは、同じく東大出版会から刊行されている
松下教授の「現代政治の基礎理論」を併せて読むのがよいと思う。(森 啓)
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