■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
松下圭一著「自治体再構築」を読む
(カテゴリー: 研究ノート・書評
  松下圭一著「自治体再構築」を読む  

自治体理論
本書は四十五年間にわたって自治体理論を創り続けている著者の最新の著作である。「自治体改革」とは六十年代に著者が造語した言葉である。そのころは、自治体を国家政策の地方実行団体とみなして「自治体闘争」と言っていた。これに対し、自治体は「市民の自治機構」であるから自治体を改革して「国家統治を市民自治に」「中央集権を地方分権に」「行政支配を市民参加に」転換するのだと提唱した。世に「自治体が発見された」と言われた。自治体理論の創始である。
 以来、自治体理論は現代の理論となって普く広がった。自治体学会に参集する人々も年々増加している。 
 その著者が、自治体が直面している「分権改革」と「財源緊迫」という厳しい状況を打開するには「自治体再構築」が必要であるとして、北海道地方自治土曜講座(三回)と吹田市と多治見市で行った計五回の講演をまとめたのが本書である。手にとって読んでみたいと思うのは当然ではないか。
本書を読めば、「自治体再構築の緊急課題は何か」「解決方策は何であるのか」が理解できる。 

思考力 ― 道具は言葉
本書の書き出しはこうである。「都市型社会の原点に立ち返って市民の位置づけから始めたい」と。
次いで「協働」という言葉の流行を「政府信託理論」からみて間違いだと述べる。

自治体職員は自治の原点に立ち返り考えなくてはなるまい。なぜ、行政文書に「協働」が氾濫するのかを。自治体職員に必要なのは思考力である。思考するには道具が必要である。道具とは概念・言葉・用語である。だから道具箱の中身が問題である。使える道具を収納しているのか。旧来の観念で蜘蛛の巣を張っているのではあるまいか。さればこそ、「市民」とは何か、「政府信託理論」とは何かである。 
 
松下教授の著作を難解だと言う人がいる。逆にまた「松下さんの本はどれも分かりやすいですなあ」と言う人もいる。新刊が出るたびに読書会を続けている関西の市民グループの人たちである。この人たちには松下用語は市民自治の言葉だから「ピッタリの納得」になる。国家統治の観念で自分を縛っている人達は「市民自治」「政府信託」はピッタリとは分からない。だが、難解だと言う人も「講演は具体的で明快で実に分かりやすい」と誰しも言う。

本書は講演形式で叙述されている。思考の道具箱に「市民」「自治」「信託」などの「基礎概念」を収納するチャンスである。基礎概念を明晰に収納すれば前例なき課題も考えることができる。

 読書研究会
1995年に札幌で「政策型思考と政治(東大出版会)」の読書研究会を始めた。名称を「政策型思考研究会」とした。最初は七十名を超える参加者であった。二年九ヶ月で最終章まで完読した。そのときの話である。
 憲法は「国民主権」と定めている。だが政府や官僚は「国家主権」と言う。学者も言う。国民主権と国家主権の関係を「どう考えたらよいのか」が論議になった。岩波新書の「市民自治の憲法理論」に「そのことが明快に述べられている」との発言があって、研究会メンバーは「市民自治の憲法理論」を手に入れたいと思った。ところが、完売・絶版でどこの書店にもない。古書店にもなかった。メンバーの一人は東京出張の際に神田の古書街で見つけて3,600円で買ってきた。刊行時の値段は230円の岩波新書である。入手困難と言えば、筑摩学芸文庫「戦後政治の歴史と思想」も完売で書店にない。この文庫本には松下教授の主要論文12本が著者の解説付で収録されている。例えばそこには「〈市民〉的人間型の現代的可能性」の論文(1966年)も収録されている。「市民」の言葉は今でこそ一般化しているけれども、1960年代のころは「階級」全盛であったのだ。「市民」は理解されず忌避されていたのである。
政策思考型研究会では、「市民自治の政府信託論」と「国家統治の国家法人論」の違いを討論によって理解を深めた。松下教授も札幌来訪の際に研究会に参加された。研究成果を論集として刊行した編集責任者は北海道庁職員の渡辺克生氏である。実費で頒布している。

テキストとして最適
著者は、「なぜ〈市民〉という問題が出てきたのか」と設問し解答している(9頁)。読者も自分の言葉で解答を考えてみることだ。書かれている文章をそのまま反復するのでは理解したことにならない。札幌の読書研究会はそのルールで進めた。なぜなら、国家統治の観念は人々の心理と論理に強固に染み付いているのである。だから、染み付いている国家統治の観念を打破するには、自分自身の言語論理を自己の内部に構築しなければならない。そうでないと自分も気づかないときに「国家・統治」が顔を出す。「国家統治」「市民自治」を道具箱に収納して何時でも使えるようにするには討論形式の読書会が有益である。本書は読書研究会のテキストとしても最適である。
著者は「都市型社会が市民成熟の条件を醸成する」と述べる。しからば、その「都市型社会」とは何か。「政策型思考と政治」を読めば「人類の第二の大転換としての都市型社会」の詳細な説明が得られる。
「市民概念」は、前述の筑摩文庫収録の「市民の現代的可能性」と松下圭一編「市民参加(東洋経済新報社)」を読めば理論理解が深まる。
本書67頁では「市民」とは「規範人間型」であるから、「市民」という規範人間型への自覚をもつ普通の私たちが「市民」なのだ、と説明する。自治体理論は現状を未来に向かって変革する理論であるから「規範概念」が重要になる。
「規範概念」とは、未来を目的として設定し現在を手段とする「政策型思考の動態的実践概念」である。事後的静止的な解説概念ではない。だから現状変革の意識が微弱であれば規範概念の「ピッタリ納得」は困難である。「難解だ」と「分かりやすいですなあ」との分岐点はここである。「行政の文化化」も規範概念であるから、行政の現状況に対する変革意識が薄弱なむきには理解不能である。「普通の人」とは「特権・身分をもつ特別な人ではない」という意味である。

 「新版・社会教育の終焉」も必読
都市型社会ではシビルミニマムの〈管理〉が行政の課題になる。この行政を組織・制御するのが市民の役割であるから、市民は多様な市民活動を行って「市民」として成熟する。そしてNPOも広がる。ところが、NPOを行政が所管・育成するという考え方がすぐに出てくる(90頁)。言葉では「支援」と言うが「統治行政」である。「市民活動」の理論認識が行政職員には未熟だからである。

1986年刊行の「社会教育の終焉(筑摩書房)」は当時の社会教育関係者には一大衝撃であった。そこで密かに「読んではならない本」として口伝された。NPOが広がった現在、市民活動にも新しい視座が必要である。「新版・社会教育の終焉」(公人の友社・2003年)は本書と同じく必読の書物である。
        
「自治体再構築」公人の友社刊・2800円
「新版・社会教育の終焉」公人の友社刊・2625円
 

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