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■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
『新自治体学入門』-再読 荒木雅彦 (自治体学研究会幹事)
(カテゴリー: 研究ノート・書評
 荒木雅彦さん (自治体学研究会幹事) が
 『新自治体学入門』のコメントを書いて下さった
 ので掲載する。

   『新自治体学入門』-再読 

 ある自治体の職員から聞いた話である。
 その自治体では、不正使用を防止するため、首長印の押印は法制・文書事務を所管する課の職員が全て行っている。事務・事業の担当者が起案して所属の責任者に決裁された文書を添え、施行する文書を持参し首長印を押してもらうこととなる。
 毎年のルーティンワークとして、ある省庁の外郭団体と業務委託契約を行っており、その契約に当たっては自治体の首長と外郭団体の長の双方押印した契約書を2部作成し、それぞれが1部ずつ保管することとしている。
 その職員は契約書を締結するために、まず、首長印が押印された2部の契約書を外郭団体に送付し、外郭団体の長の印を押印してもらい、1部を返送してもらおうと考えた。
 たまたまその日、その時間帯に首長印を押印する担当だった若手職員から、「契約書への押印ですが、国以外を相手方とする場合は、まずは、相手方に押印してもらって、それを確認してから首長印を押印することにしているので、今回は押印できません」と言われ、その職員は「前任者から先に首長印を2部押してもらって返送するって聞いていたのだけれども、なぜ、うちの首長印を先に押すことはできないのかな?」と聞くと、「当課で定めた内規で、国以外を相手方とする場合は先に押印しないと決めているのです」と回答があった。「省庁の高級官僚が天下りしている外郭団体なので、国と同じじゃないの?」と尋ねると、「それはちょっと…」。また、「なぜ、国との契約だったら、うちの首長印を先に押すのに、民間相手だと、民間に先に押させて、うちが後に押すことになるのかな?国は我々にとって上部機関でおそれ多いってことなのかな?逆に下々の民間には、先に社長のハンコを押して契約させてくださいって持って来いって言っているのかな?、自治・分権の時代なのにねぇ」と伝えると、「私にはちょっと…、内規でそう決まっていますから…」と頭を掻くばかり。その様子に気づいた押印担当の若手職員の上司で、その職員の旧知の職員から「おいおい、あんまりうちの若手をイジるなよ~」の一言で、そのやり取りはお開きとなったという。

 2000年分権改革で機関委任事務は廃止となった。地方自治法は改正され、国と自治体は上下ではなく、水平対等の関係になったと言われている。情報公開、総合計画、政策評価、行政基本条例・議会基本条例・自治基本条例など、明治以来の統治・集権
型行政を自治・分権型に変革しようとする取り組みが全国各地で進められてきた。だが、そうした自治・分権的な仕組みが整えられた自治体であっても、職員一人ひとりにとって、職場の文化は、国や都道府県の職員との仕事の進め方や関係性は、市民との向き合い方は、議会との関係は、つまり、行政の実態は自治・分権的に変わったと言えるであろうか。
 団塊の世代の大量退職を迎えた現在、多くの自治体が新人職員大量採用時代の真っ只中である。国家統治理論の憲法や行政法を学んだ学生を採用したのは2000年までの
はずである。法学部出身でなくても、自治・分権は日本の政治・行政の大きな課題と広く認識されるようになった。例えば、「大阪都構想」のような政治ショーという形であっても、メディアで繰り返し取り上げられてきたように、2000年以降も自治体と国の仕事と
権限・責任の配分をはじめ、自治・分権を巡る課題に対して社会的な関心は高まってきた。そうした中、採用された若手職員が「内規でそう決まっているから」と発言することについて、その「内規」自体が、また、「そう決まっている」ことが、そして、それらに対して無自覚に発言して(させて)しまうことが、まさに「職員力」として問われているのではあるまいか。それは、若手職員というよりも、肝心な部分で変わっていない行政実態を支え、維持してきた若手職員以外の職員の問題なのではなかろうか。

 『新自治体学入門』は、何度読み返しても、チクリと胸に刺さる部分が少なくない。 「たしかに、自治体理論は広がり、政策形成力は高まり、市民自治制度は装備された。画期的な展開である。だが主体鈍磨が生じ、状況追従思考が蔓延している」(P54)
「70年代と対比するならば画期的な展開である。しかしながら、統治行政の実態はほとんど変わっていない。なぜ変わらないのか。自分自身は何も変わらないで新しい言葉を使い、新しい制度を制定すればそれで事態が変わると考えるからである」 (P104)
「保身第一の価値軸を転倒しなければ公務員は自治体職員に成長できない」(P134)
「日常の職場において、間違っていることを間違っていると発言する。その思念が自身の内に生じないのは批判的思考力が衰弱しているからである」 「一歩前に出て壁を越え た体験がないから「思考の座標軸」が定まらないのである。 つまりは、理論視座が欠落しているのである」(P170)

忖度が新語・流行語大賞に選出されたように、生活保守と状況追随思考が蔓延し続けている現在にあって、2008年に刊行された本書は、10年経っても色あせることなく、そしてこれからも自治体職員を厳しく鼓舞する1冊であり続けるであろう。

                   荒木雅彦 (自治体学研究会幹事)   
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