■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
北海道自治体学土曜講座第一日の概要報告
(カテゴリー: 北海道自治体学土曜講座
 
  北海道自治体学土曜講座第一日の概要
   会場討論 (1)

1.桶川市のルームクーラー撤去
 1994年の夏は暑かった。
 その夏、桶川市の担当職員が生活保護で暮らす老婦人に、「ルームクーラーを撤去しないと来年度から生活保護費が出せなくなります」と「クーラー撤去を迫った」の新聞報道が全国に流れた。「何と冷酷な行政であるか」の声が全国に広がった。
 生活保護法は厚生省(現厚生労働省)の所管である。だが機関委任で保護手当の支給業務は市が担っている。厚生省は保護所帯の認定基準を「クーラー等は60%以上の家庭に普及」と定めている。
  桶川市は「冷酷な行政と非難をされても、国の委任事務であるから厚生省基準に従わざるを得ない」である。
  これは「実践理論である自治体学」の課題である。

 パネリストに「どう考えればよいか」「どう対処すればよいか」の見解を求めた。明快な見解が出ないので、「皆さんはどう考えますか」と会場にも意見を求めた。

 筆者はかつて(1994年)、北海道庁の係長研修で同様の質問をした。
 「気持ちとしては何とかしたいが、機関委任事務であるから厚生省基準に従わざるを得ないのでは……」が返答であった。そこで、自治体職員として「それでよいのですか」とさらに尋ねると、「講師ならどうしますか」と逆に質問をされた。

 筆者の所見を記述する。
(1)生活保護の受給者は、世間並みを超える暮らし方を一切してはならないのか。世間を気にしながら生活をせよと言うのであろうか。ルームクーラーを設置しても、電気代などが生活保護費に加算されるわけではない。そうであっても、60%以上の家庭に普及していなければ使えないのか。
(2)少額の生活保護手当で「どのような生計を営むか」は各人の自由の問題である。生計費をヤリクリして「オペラを見るのも、美味な料理を楽しむのも、洒落れた服装で出かけるのも」人の暮らし方である。「如何なる暮らし方をするか」は人の自由である。
(3)「暮らし方は自由であるが、人の税金で暮らしているのだから(世間から助けて貰もらっているのだから)、地域の60%の家庭に普及していないクーラーは、やはり感情としては……」の思考と論理は、人権感覚の希薄・人倫思考の欠如である。
(4) 憲法25条は社会権であり生存権である。福祉は「慈善・施し」ではない、「権利」である、と講義をする方々が、実践問題に直面すると、途端に「機関委任事務」「通達」「省庁基準」などの「国家統治の用語」に絡め取られた思考になる。
これが「知っている」と「分かっている」の場面である。
(5)この事例で見解を求められたとき、「人権の問題」だと考えない、思いがそこに至らないのは、「人権」という言葉を「知っているだけ」で、本当は「分かっていない」のである。自分自身を常に安全な立場に置き、困難を覚悟して一歩前に出た実践体験がなければ、人権感覚は身に付かない。
(6)そもそも、通達や行政基準は官僚の法律解釈である。法律解釈は国家を隠れみのにする省庁官僚が独占するものではない。市民も自治体職員も法律を解釈してよいのである。そして解釈相互に齟 齬があるときは司法の場で解決・決着するのである。
(7)「桶川市のルームクーラー撤去」の事例は、「自治体学とはどのような学か」を、了解し認識する実践理論の事例である。

 ところで、担当職員が課長に「ルームクーラーを使っていても、生活保護額を加算するワケではないのだから、認定を続けてもよいのでは……」と相談(具申)したとする。課長は「機関委任業務だから厚生省基準を無視できない」と答えるであろう。ここからが「自治体学の実践」である。

 以下は、1994年の秋、北海道庁の係長研修での逆質問への返答である。
首長も議員も「市民と共にまちを創る」「安心して暮らせる明るいまちづくり」などを政策公約に掲げている。そして「60%の厚生省基準に合理性は無い」のである。そこで、この二つを公衆の場で(市民の面前で)結び付ける。結び付けて市民の共感を獲得する。つまり「世論」をつくる。
(2)まず、小人数の研究会で討論して下記の共通認識を得る。
 ①厚生省の認定基準に合理性・妥当性は無い。
 ② 老婦人のルームクーラー使用は生活保護の所帯認定の支障にならない。
 ③ クーラー撤去の問題は「まちづくりの問題である」。
 ④ 機関委任の業務であっても「自治体としての見解」を持たなくてはならない。
 ⑤ 「議会が自治体見解を確認する」ことが「厚生省基準に向かい合う論拠」になる。
(3)次に、地域の有志に呼び掛けて、これらの論点を討論する公開討論会を開催する。「冷酷な行政だ」と全国に報道されているから、それを逆手に取って「明るい桶川のまちづくり」への参加を市民・議員に働き掛ける。
(4)公開討論会の事前取材を新聞・テレビに働き掛ける。
報道されて地域の話題になる。それが「世論」になって「議会での論議」になる。
(5)新聞・テレビで公開討論が報道される状況を、先取りする「市広報の特集」を首長に提案する。すなわち、首長の「先取りしたい思惑」を手助けする。
 これらは「機関委任事務だから厚生省基準に従わなければ」の思考習慣(国家学の論理)を打ち崩す実践である。その論理と才覚が自治体職員には必要である。これが自治体学の実践である。
だが国家学の方々には「自治体学の実践」の意味理解は難しいであろう。
 「自治体学の実践」の実例(10項目)を、「自治体学とはどのような学か」( 公人の友社・2014年5月刊)の第5章に記述した。
頒布ー定価1200円+税(96円) を 著者割引で1000円
 問合せ 03-3811-5701 info@koujinnotomo.com

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