■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
自治体学会の設立意味
(カテゴリー: 自治体学会の設立経緯
自治体学会の設立意味 
  
1 自治体学会           
 自治体職員が中心になって設立した学会である。
1986年5月23日、横浜開講記念会館で設立大会を開いた。前日の発起人会議には135人、当日の出席者は620人。自治体職員、市民、研究者、首長、議員、研究機関の職員、労組役員、ジャーナリスト、コンサルタント、文化団体役員など、およそ学会の設立とは思えない多彩な顔ぶれであった。会員は2006年現在で二千人。活動内容と事務局は「ホームページ」を参照。 
 
2 政策研究交流会議
自治体学会は「自治体政策研究交流会議」から生まれた。
その政策研究交流会議は次のような経緯で開催された。
七十年代に公害問題と社会資本不足で都市地域に住民運動が激発して革新自治体が群生した。革新自治体は「省庁政策の下請団体」から「地域独自の政策を実行する地方政府」への脱皮を目ざしていた。
これらの情勢を背景に自治体職員の「自主研究グループ」が叢生した。そして1984年5月、東京中野サンプラザで「自主研・全国交流集会」を開催した。この自主研究活動の広がりが政策研究交流会議を開催するに至る要因の一つであった。
もう一つの要因は「政策研究を時代の潮流にするため」であった。
神奈川県が1978 年に「公務研修所」を「神奈川県自治総合研究センター」に改組して「研究部」を設けた。その研究部の「神奈川の韓国・朝鮮人の研究」が朝日新聞の論壇時評で「本年度の最高の成果」と評され「自治体の政策研究」が注目を集めた(注1)。
この動向を敏感に洞察した自治体首長が「政策研究の組織と体制」を自治体内に設けた。例えば、政策研究室(愛媛)、政策研究班(福井)の設置、シンクタンクの設立(静岡、埼玉)、地域の研究所や大学との連携(兵庫、三鷹市)、政策研究誌の発刊(神奈川、兵庫、徳島、埼玉)などである(注2)。
かくて、神奈川県の「研究部設置」が引き金になって「自治体の政策研究」が潮流になりつつあった。ところが、本庁の課長は所管業務に関連する政策研究を嫌った。知事のいないところで「若い職員が勝手な夢物語を描いている」と冷淡に言い放って水をさしていた。これが当時(一九八三年前後) の先進自治体の状況であった。
この状況を突き破るには「全国交流会議」を開催して「政策研究が時代の潮流になっている」ことを内外に鮮明に印象づける必要があった。

3 自治体学会の設立動議
一九八四年十月十八日、神奈川県民ホールの六階会議室で「自治体政策研究交流会議」が開催された。北海道から九州までの各地から一四〇団体・三五二人の自治体職員と市民と研究者が参加した。
この交流会議の場で「二つの動議」が提出された。
一つは「交流会議の継続開催」。他の一つは「自治体学会の設立」。
前者は「全国持ち回り開催」を確認して次回は埼玉で開くことが決まった。後者の「学会設立の提案」は、参会者全員が地域と職場で「学会設立の意義と可能性」の論議を起こし、その結論を次回埼玉会議に持ち寄ることを約定した。
このような経緯で「政策研究交流会議」から「自治体学会」が誕生した(注3)。だが、設立大会に至るまでには「壁と曲折」があった。その詳細は横浜で2006年8月に開催された第二十回自治体学会の「自治体学の二十年」の分科会に提出した「自治体学会の設立経緯」(公人の友社)を参照されたい(注4)。

4 自治体学
既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」である。政治・行政・経済学の理論枠組は「国家権力」「国家機構」「国家法」「国民経済」である。
 自治体学は「国家統治から市民自治へ」「中央集権から地方分権へ」「行政支配から市民参加へ」の組替えを目指す実践理論である。実践を理論化し、理論が実践を普遍化する「政策思考型」の自治体理論である。
「国家学」は「国家」を統治主体と擬制する。「自治体学」は「市民」が社会を管理するため「代表権限を信託する」と考える。
学会設立時には、自治体学を「自治体関連の諸学の総称の学」と仮定義した。
( 以下の叙述は、神奈川県の研究部員が「学会設立発起人」を求めて「全国行脚」の旅に出かけた際に携行した「自治体学に関する研究」の一部である )
日本の社会科学は「輸入学」として出発した。「国家」「国民社会」を理論枠とする「国家学」であった。国家学では現代の都市型社会が生起する、医療、資源、福祉、文化、環境などの「前例なき公共課題」に対して、部分的な問題点の指摘は出来ても、全容解明は出来ない。とりわけ、既成の学問にはこれら課題を生活の場で自治の問題として解決する「市民自治の視点」が根本的に欠落している。このため市民運動が提起する論点に回答が出来ない状況がつづいている。
 
5 なぜ、自治体職員が学会設立を考えたか
「自治体の政策自立」には「自治体職員の政策水準の高まり」が不可欠である。自治体職員が政策能力を高めるには「前例に従って何事も無難に」の行政文化を超えなくてはならない。行政文化を超えるとは、一歩前に出て「才覚と勇気」で職務を実践し「地域課題を解決する」ことである。だが、職務実践だけでは政策能力は身につかない。歴史の一回性である「実践体験の知見」を「普遍認識」にまで高めなければならない。そうでなければ、前例なき公共課題を解決する政策形成力は身につかない。実践を理論化しなければならない。
「実践体験の知見」を「普遍認識」に高めるには「文章に書く」ことである。「文章に書く」とは「概念で実践を再構成する」ことである。その「再構成」が「普遍認識力」を高め「実践的思考力」を自身のものにするのである。
「政策形成力と政策実行力」には実践的思考力が不可欠である。 
「実践を再構成する」には理論が重要になる。そこで「実務と理論の出会いの場」として「学会設立」を考えたのであった。 
しかしながら、「実務と理論の出会い」は「自身の内において」である。学者の会員がいることが「実務と理論の出会い」ではない。なぜなら、「既存の学問」と「自治体の政策研究」とは「思考の方向」が異なるのである。
例えば、「行政学の政策研究」は「政策・政策過程」を事後的・実証的・分析的に研究する学である。「自治体の政策研究」は現実を未来に向かって「課題設定し解決方策を考え出す」営為である。
すなわち、行政学の政策研究は「政策の実証研究」であるが、自治体の政策研究は「政策の研究開発」である。それは未来を構想する「規範的創造的な政策開発」の営みである。
自治体学会は「実践的思考力」を「自身のものにする場」である。そのように運営されなくてはならない。

5 北海道自治体学会と地方自治土曜講座
 1995年7月8日、北海道在住の自治体学会員が中心となって「北海道自治体学会」を設立した。都道府県単位としては全国で最初であった。以来、「総会・政策フォーラム」と「政策シンポジウム」を毎年1回ずつ開催して今日に至っている。北海道地方自治土曜講座も1995年から毎年開講され、講義を記録したブックレットは2006年現在で100冊を超えた。


注1 神奈川県自治総合研究センターの「ホームページ」を開けば当時から今日に至るまでの「自治体の政策研究の内容」が一覧できる。「ダウンロード」もできる。
注2 当時の政策研究の動向は「自治体の政策形成力」(時事通信社)の第二章に記した。
注3 自治体学会の設立経緯の掲載誌は「自治体の政策形成力・第六章」(時事通信社)に詳記した。交流会議の内容は「時事通信社・地方行政(84年11月10日号)」と「地方自治通信(85年2月号) (86年2月号)」に掲載された。
注4「自治体学の二十年・(公人の友社)」に「設立時の特集誌」も記した。
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