■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
「市民行政」の可能性
(カテゴリー: 自治体学理論
 北海学園大学・第72回・現代政治研究会 

 と き :2012年4月7日(土)14.30-17.00
 ところ :第1会議室(北海学園大学4号館10階)
 テーマ :「市民行政」の可能性
 報告者 :森 啓
 連絡先 北海学園大学法学部山本研究室 
011-841-1161-(内線2390)


1 市民行政の概念 
 市民行政とは、市民が行政庁舎内で「行政事務」に携わることである。
 既成の行政法学は「行政事務は公務である」「公務は公務員身分を有する者が行う」と考える。そのため「市民行政の概念」が理解できない。
 これに対し自治体学は次のように考える。
 これからは、「公務員の行政職員」と、首長が任期内で委嘱する「市民の行政職員」の二種類の行政職員が存在する、と考える。
「市民行政」は「行政不信」の現状打開をめざす実践概念である。(実践概念の意味は「新自治体学入門(時事通信社)」の第三章に述べた)

 市民行政を理解するには「行政概念の再定義」が必要である。
国家学は「行政とは法の執行である」と定義する。自治体学は「行政を政策の実行」と考える。政策とは「課題と方策」であるから、「政策の実行」とは「公共課題を解決し実現する」ことである。行政とは「まちづくりの実践」であるのだ。
 現代社会の公共課題は公務員だけでは解決できない。「行政職員と市民」の「信頼関係を基にした協働」なくしては解決実現できない。優れたまちづくりの実践例がそれを実証している。「市民行政」が不可欠必要な時代になっているのである。
 国家学は「行政は公務であり、行政執行は公務員が行う」の観念から脱出できないから「市民行政の意味」を理解することができない。
 「市民行政」は、市民が庁舎内で公務員職員と机を並べ行政事務を担うことである。その「行政事務」は、臨時職員やアルバイトが担っている補助業務ではない。政策の立案・決定・実行・評価の事務である。

2 市民行政の着想 
 市民行政の観念は、2008年7月の「夕張再生の自治体学」の公開政策研究会の論議のなかで生まれた。2007年3月、夕張市は財政債権団体に指定され総務省の管理下に置かれた。
 総務省の考える「夕張再生」は、353億円の債務額を18年間で返済することであった。それは「債務償還計画」であって「夕張再生計画」ではない。
 しかも、債務総額の353億円は、北海道庁が「みずほ銀行」などの債権者に全額立替をして確定した債務額である。経済社会の通常では、返済不能となった「不良債権の処理」は、債権者会議の場で「何割かの債権放棄と返済保証」の協議がなされるのである。「北海道庁の役回り」はその「権者会議の場を設ける」ことではなかったか。 北海道庁は夕張市民の生活よりも金融機関の債権保護を重視したのである。
「18年で353憶円を返済」の財政再建計画は実質的には総務省と道庁が策定したものである。藤倉市長は「夕張の体力では10年間で100億円の返済が限界」と懸念を表明していた。「夕張の再生」には「夕張市民の生活が」が基本になくてはならない。
 夕張再生室長に総務省の派遣職員が就任した。全国からの1億円を超える寄付金 (黄色いハンカチ基金)の使途も総務省派遣職員が掌握した。

 夕張再生には「市民と行政の協働」が不可欠である。だが市民には、長年の経緯による「議会不信」と「市役所不信」がある。「市役所不信」を打開しなければ夕張再生はできない。「市役所不信」を打開するには、市民が行政の内側に入って「行政事務」を担うことである。

3 市民行政の現状 
 市民行政は既に様々な形態で行われている。
① 庁舎受付、庁舎清掃、庁舎警備
 これらは、公務員身分を有する者の業務であった。だが今では、どこでも外部委託になっている。
② 行政広報、総合計画、行政調査、
 表向きは公務員職員の業務であるけれども、実態は外部委託が多い。
③ 職員研修
 現在は「職員研修の企画・実施」までもが外部に託されている。一昔前ならば考えられないことである。尤も、「内向き公務員」が企画する研修よりも、「公共感覚のある市民」が企画する研修の方が民主行政になるであろう。
④ 公共施設の管理運営
 小泉構造改革の「官から民へ」の流れで「指定管理者制度」が流行になった。だが目的が「経費節減」であるから「様々深刻な問題」が生じている。改革名目で「公共性を無視・軽視」する事態になっている。問題は、何処(いずこ)に委託するか、如何に市民自治的運営にするかである。
⑤ ニセコ町立図書館―“あそぶっく”
 北海道ニセコ町は2008年から図書館運営を町民が担っている。
 役場の前に道路を挟んでニセコ郵便局があった。2 008年、その郵便局が別の場所に移転するので建物を譲り受けて町立図書館にした。そのとき町民から「運営一切をやりたい」の要望があり全面委託にした。以来5年間、何の問題も起きていない。役場職員が運営するよりも好評である。
 2011年11月18日の「市民行政を考える」公開政策研究会で、片山ニセコ町長は、「あのとき役場職員を一名も入れなかったのが成功の要因であった」「そのとき一人でも入っていたら、これは教育長の意見を聴かなくてはいけない」「この本を買うのは役場の許可を得なくてはならない」「こういうイベントは前例がない」などが始まったと思います。現在は「子どもの遊び場」になり「高齢の皆さんのたまり場」にもなって、実に自由な図書館運営になっております。なんでも役場がやる時代は終わっていると思います、と語った (北海学園大学開発研究所2011年度研究記録集61頁) 。

4 市民行政の論点
①秘密保持
 職務上知りえた秘密の保持は、「市民職員」であろうと「公務員職員」であろうと同じである。地方公務員法に基づかなくては「秘密保持が保たれない」と考えるのは無益思考である。そもそも、「守秘義務」とは何か。「○秘のハンコ」「部外秘の朱書」の実態を検証すべきである。その内容の多くは、「無難に大過なく」の管理職の保身である。
 条例で「秘密保持の宣誓」を定めればよいのである。
 
②行政責任 
 「故意または重大な過失」によって生じた損害の「求償責任」は「公務員職員」も「市民職員」も同様である。 問題は「行政責任とは何か」である。
 行政責任とは「為すべきことをしない責任」である。「不作為」が「行政責任」である。行政とは「積極的能動的に政策課題を解決実現する」ことであるのだ。保身のために「何事も無難に大過無く」で「為すべきことを為さない不作為」が行政責任であるのだ。「市民行政」は「無難に大過なく」の「行政体質」を打開するためである。

③委嘱任用の手続き
 行政職員は首長の私兵ではない。首長も職員も共に市民に信託されているのである。
 橋下(大阪維新の会)は「代表民主制の基本原則」を理解しない考え方である。行政職員は首長に雇用されてるのではない。
 そこで、市民職員の委嘱が首長の恣意にならないための「市民自治的手続」を条例で定める。

④公務とは何か
 公務とは「公共事務」であって「統治事務」ではない。行政事務も「統治事務」ではない。「自治事務」である。公務員(身分)でなければ行政事務は担えないと考えるのは国家学の統治理論である。「市民行政」「市民職員」は「市民自治の自治体学理論」である。

  *参考文献  
(1)森 啓『新・自治体学入門』(時事通信社、2008.3)
(2)森 啓「市民政治の可能性」『開発論集』88号(2011-8)所収)


 この研究会討論を基に下記の内容で「続・自治体学入門ー自治体学の実践論理」を刊行する予定である。

  自治体学の実践論理-続・自治体学入門

 第一章 市民自治
1 定義―市民自治
2 政府三分化説 政府信託理論
3 自治基本条例
4 栗山町議会基本条例の根本的欠陥

 第二章 市民行政
1 市民行政の概念-市民政治、市民自治、市民行政
2 市民行政の着想―行政不信を打開するため
3 市民行政の現状―様々な形態で既に行われている。
4 市民行政の論点―秘密保持 行政責任 委嘱任用の手続き
5 公務とは何か

 第三章 代表民主制
1 代表民主制の形骸化-実際例で検証 
2 政治不信 ヒーロー待望の危うさ 橋下維新の会検証
3 議会不信 議会不要論の声 議会改革の論点 議会基本条例
4 行政不信 行政不信の打開―市民行政の提起
5 直接民主制と間接民主制

 第四章 実践論理
1 説明理論と実践理論
2「知っている」と「分っている」
3 歴史の一回性である実践 実践の言語表現―経験的直観の意味
4 具体実例で検証

 第五章 自治体学会  
1 自治体学会の設立経緯 
2 自治体学会の運営
① 全国自治体学会
② 北海道自治体学会
3 北海道土曜講座の16年
4 自治体学会の存在意味


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