■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
「政策研究」という用語
(カテゴリー: 自治体学の基礎概念
 「政策研究」という用語 

「政策研究」の言葉は80年代までは自治体に存在しなかった。だが現在ではさしたる疑問もなく使用されている。「政策研究」の言葉が自治体で一般化したのはなぜか。 
行政学の「政策研究」は「Policy-Studies」である。即ち「特定政策を対象にした実証的研究」のことである。
 80年代の自治体で盛んに展開された「自主研究活動」や「政策課題研究」は行政学の「政策研究」とは異なるものであった。「政策開発」あるいは「政策提案」の言葉が実態に近いものであった。
それがなぜ「政策研究」の言葉となって定着したか。

 第一回自治体政策研究交流会議が横浜湾を眼下に眺望する神奈川県民ホール六階会議室で1984年10月18日に開催された。そのときのことである。
 この交流会議を主催した神奈川県自治総合研究センター内で、所長が『自治体政策研究交流会議』ではなく『自治体研究交流会議』の名称にしてはどうか」と言い出した。表向きの理由は「政策研究は一般化した言葉ではないから」であった。だが真相は県議会に対する所長の心配りであった。当時の県議会多数会派は「長洲知事に得点をさせるな」と管理職を牽制していたのである。
 そのころは、行政内の通常会話では「政策」の言葉は使われていなかった。「施策」「事業」であった。「神奈川県公務研修所」を「神奈川県自治総合センター」に改組したときにも「政策研究」ではなく「調査研究」の言葉であった。当時の自主研究活動の人達も自分達の活動を「政策研究」と意識していなかった。言葉も使っていなかった。

 だが、この交流会議を企画した研究部は、自治体の内外に「政策自立の機運」を高めるには「政策研究交流会議」の名称で「全国交流会議」開催することが重要であると考えた。そこで、言いだした所長の体面を保つ工夫をしたうえで「自治体政策研究交流会議」と印刷した開催案内の文書を全国自治体に配布し、新聞記者に取材を求め「情報提供」行った。
 かくして「政策研究」の言葉が新聞記事になり月刊誌の特集になって全国に広がった。「言葉の広がり」が「自治体の政策自立」の機運を高めるのである。

「行政学の政策研究」と「自治体の政策研究」とは同じではない。概念を混同してはならない。だが現在においても、両者の意味の違いを理解しない学者の論稿が見られる。行政学の「Policy-Studies」は「政策の事後的な実証的・分析的な研究」である。自治体の研修に招かれる行政学者は「政策研究とは政策の調査研究のことです」と曖昧な説明を行っていた。
 1987年に徳島で開催した「第四回政策研究交流会議」までは、誤解と曖昧さが続いた。しかしながら自治体の「政策研究」にはその暖昧さが必要であったのである。

 その意味は次のようなことである。
都市的生活様式が全般化し地域に前例のない公共課題が噴出した。自治体はこれらを「政策課題として設定」し「その解決方策を開発」しなければならない。タテワリの省庁政策に追随従属していたのでは「住んで誇りに思える魅力あるまち」はつくれない。政策自立が必要である。
 ところが、政策立案の権限を握っている自治体の課長は「前例なき課題」に対応する政策を立案することが出来ない。
自治体が政策自立するには「新たな政策形成システム」を自治体内に構築しなければならない。「新たな政策形成システム」とは「様々な主体」による「課題の発見」と「解決方策の発明」を、ラインの政策立案の前段に位置づけることである。だが立案権をもつ課長は所管業務への口出しを嫌がり納得しない。
 そこで、課長が納得せざるを得ない状況をつくる必要があった。「政策開発」「政策提案」の言葉では課長の反発を招く。「政策研究」ならば「職員研修として必要である」と時間が稼げる。重要なことは研究成果を積み上げることである。さらに重要なことは、ライン以外の自治体職員や市民が自治体の政策形成に関与する道筋を切り拓くことである。
 つまり、政策形成を所管課長の独占から解き放つことである。
しかしそれは、所管セクショナリズムの枠を緩めることであるから、当然容易なことではない。だが、それをやらなければ自治体は政策主体になれない。前例なき課題を解決する「政策形成システム」を装備できなければ自治体は「地方政府」ではない。
 そこで、暖味な「政策研究」なることばを使いながら「課題の発見」と「方策の開発」の実績を蓄積する作業を自治体内に広げ一般化し慣行化することをめざしたのである。
「自治体政策研究交流会議」の狙いはこれら状況を切り拓くためであった。この経緯は「新自治体学入門-時事通信社」の10章に詳述した。

「自治体の政策研究」は「行政学の政策研究」とは異なる。行政学の政策研究は事後的な「政策の実証研究」である。自治体の政策研究は「政策の研究開発」である。それは未来構想的で規範的創造的な政策開発の営みである。自治体の「政策研究」は規範概念であり「実効性と未来予測性」に意味がある。
 今にして言えば「政策研究」なる用語の選択は正解であった。  
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