■■■  自治体学  ■■■

 既成の学問は「国家」を理論前提とする「国家学」です。
 自治体学は「国家統治を市民自治へ」「中央集権を地方分権へ」「行政支配を市民参加へ」組替える実践理論です。「実践を理論化し理論が実践を普遍化する」市民自治の理論です。
新刊 自治体学入門
(カテゴリー: 自治体学理論
新刊・自治体学入門 (時事通信社)
「自治体学入門」を刊行した。

目次
 1章 自治体学の概念
 2章 自治体学理論
 3章 市民力と職員力
 4章 市民自治基本条例
 5章 代表民主制と住民投票
 6章 市町村合併
 7章 道州制
 8章 自治体改革
 9章 自治体職員の研修
 10章 自治体学会の設立経緯
 book


「自治体学理論の構成」は筆者にとって長年の懸案であった。
 1984年の自治体政策研究交流会議において自治体学会設立が約定され、神奈川県自治総合研究センター研究部が学会設立事務局を担うことになって以来の懸案であった。本書第10章に叙述したように、当時は「自治体学」の観念は存在しなかった。そこで、学会設立の賛同者を呼び掛ける全国行脚に携行するために、筆者が所属した研究部で「自治体学に関する研究」を急遽とりまとめた。
 1987年の設立大会で会則に「自治体学の研鑽をめざす」と定めたが「自治体学概念」の共通認識は未だ定まっていなかった。
 2006年4月、北海学園大学法学部は「自治体学」を専門科目(四単位)として開講した。日本の大学で最初である。本書はその講義を基にしている。
 本書をまとめ得たのは、1979年開催の第一回全国文化行政シンポジウムで松下圭一教授と邂逅し以来30年にわたって示唆をいただくことができたからである。

 自治体学会を設立して20年が経過した。
 20年の歳月は歴史である。歴史は現在を見据える座標軸であるから、20年を経過した自治体学会は「何が現在の問題であるのか」を考える研究対象となった。自治体理論・政策形成力・市民自治制度は深まり広がり整備された。1970年代に比すれば画期的とも評すべき展開である。
 しかしながら、市民と職員の実践的思考力は強まったであろうか。市民と職員の相互信頼は強靭になっているであろうか。研究者は個別具体の実践を普遍認識に至らしめる理論を深化させているであろうか。

 70年代の日本社会には熱気があった。状況を突き破る主体が存在した。現在の日本は状況追随思考が蔓延し時代に対する怒りや問題意識を失っているかのようである。
 なぜであろうか。「生活水準」が良くなり「ハングリー」でなくなったからではあるまい。二つの理由が考えられる。
 一つは、社会を全体的に考察する「理論」が力を失っているからである。70年代には「社会主義の理論」が存在した。「時代を切り拓く気概」と「社会変革のエネルギー」が存在した。革新団体の役員には「自身の不利益をも覚悟する献身性」と「未来を展望する純粋性」があった。今はそれがない。状況追随思考が現在の日本社会に蔓延するのは「理論の羅針盤」を見失っているからであろう。
 もう一つの理由は、学校教育で「自国の近現代史」を45年間にわたって意図的に教えなかったからである。
 日本の人々は自分の国の歴史を悲しいほどに知らない。哀れなほどに知らないのである。思考の座標軸は時間軸と空間軸である。タテ軸の「歴史軸」が欠落して「思考の座標」が定まらないから時代や社会を批判的に考えることができないのである。

 思考の道具は「言葉」である。批判的思考力を取り戻すには「道具である概念」を明晰にしなくてはならない。論理的思考には明晰な概念・用語が必要である。状況を突き破り未来を創造するのは「規範的思考力」である。規範的思考には「規範概念」が不可欠である。
 70年代の対立軸は「経済体制のイデオロギー」であった。現在の対抗軸は「国家統治」対「市民自治」である。すなわち、「中央支配の継続」に対抗する「地域自立の実践」である。「国家学」を「自治体学」に組み替える規範的思考力が緊急の課題である。自治体学会の役割はいっそう重要である。
 改革はいつの場合にも「主体の変革」が基本である。自分自身は何も変わらないで「目新しい言葉」を述べる風潮が広がっているのではあるまいか。
 例えば、自治基本条例が「自治体の最高規範」であると解説され、流行のように制定されている。良いことである。画期的な自治の進展であると言えよう。しかしながら、第4章「市民自治基本条例」で検証したように、そこには「主体変革」の問題意識が欠落している。「新しい制度」をつくれば「状況が変る」と考えているのではあるまいか。

「協働」の言葉も流行している。協働とは「自己革新した主体の協力」を意味する造語である。主体双方の自己革新が前提である。行政と住民の関係が現在のままでは協働にならない。「協働」は統治行政の現状況を「市民自治」に転換するための「主体変革」を前提とした言葉である。すなわち、自己革新した「市民」と「自治体職員」の相互信頼に基づく協力関係が地域の自立を創り出すのである。本書の表題を「市民力と職員力」とした所以である。

 本書は「自治体学」の概念を「国家学」との対比で定義し、自治体学理論の基礎概念を吟味して「市民自治」の意味を確定した。
 次いで「協働」の言葉の意味を探り、自治体を「市民自治の政府」に改革するには市民と職員の信頼関係が不可欠であることを論証した。さらに「自治基本条例」の制定実態を検証し「主体変革の問題意識」が欠落しているのは重大問題であると論点を提起した。
 さらに、今次の市町村合併において全国で展開された「住民投票条例の制定」を求めた署名運動の意味を探り、住民投票は有権者の「代表権限制御の行動」であるとして自治体学理論に定位した。
 次いで本書は「市町村合併と道州制」の論点を整理し「自治体改革と職員研修」との関連を論証した。最後に20年を経過した自治体学会の役割を未来に向かって見いだすために、設立事務局を担当した立場から「自治体学会の設立経緯」を詳細に叙述した。
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